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【2024/04/27 03:46 】 |
【小說錄入】デビルサマナー葛葉ライドウ対死人驛使(1-3)
 漆黒の外套が黒揚羽≪くろあげは≫の羽撃きをして逆立った。
風が上空の暗雲を流し、斑≪まだら≫の月明かりがその姿を浮き上がらせる。
「影の護邦≪ヤタガラス≫の尖兵≪せんぺい≫か、ギッ、ライドウだとぉ?」
外套の下もまた黒一色だ。正確には、男子詰襟≪つめえり≫學生服であるが故に黒い。同色の学帽を頭に、その鐔≪つば≫下から覗く顔は、衣服に対比して、白蓮≪びゃくれん≫ほどにも之路≪しろ≫かった。
「——魔断震≪まだんしん≫で生じた"切れ目"から彷徨≪さまよ≫い来た悪魔たちか」
目張≪めば≫りを施されたかのようなハッキリとした双眸≪そうぼう≫、唇≪くちびる≫もまた目張り墨で彩られているかのようだ。筋の通った鼻茎≪はなみね≫、陶器を連想させる頬≪ほお≫にピンと鋭角に貼り付く揉上≪もみあ≫げ、紅顔の美少年ならぬ"白顔の美少年"と呼ぶにふさわしい容貌≪ようぼう≫であった。
「——喪服の女と——そこに連れている死人を離せ」
「ギ、ギギッ、葛葉ライドウか、笑わせてくれる」
芙代子を宙に浮かせている翼が、吐き捨てるように言う。
「——聞こえなかったようだな」
學生服の片腕が胸元へと伸びた。
黒服には、通し矢……弓矢の歩射……で使われるような胸当てが装着されている。ただの胸当てと異なる点は、そこにはガンホルスターのカートリッジループによく似た小袋が並び、実包≪カートリッジ≫ではなく七寸ほどの長さの薄鈍色≪うすにびいろ≫の"管"が収められていることだった。
「ネビロス、呪殺詠唱≪じゅさつえいしょう≫だ、ギギギッ、この小僧の武器は刀だ、ただの刃物ではなさそうだが、間合いに入らなければ畏るるに足らず」
「承知」褪紅色≪たいこういろ≫の頭巾が頷≪うなず≫く。
「——女は喰らうつもりだったのだろうが」
學生服の胸元から"管"が引き抜かれた。
「——死人と仲良く散歩というのは、趣味なのか、解≪げ≫せないな」
「なぁに、すぐ理解できるさ、すぐに」
青鈍色≪あおにびいろ≫の翼が"ギッギッ"と羽撃く。
「すぐにおまえも死人となって連れて行かれるわけだからなぁああああああああああ」
声が振動波となって空気を歪≪ゆが≫ませた。
撓≪しら≫む空間が射線となって、學生服へと襲いかかる。
黒外套が残像を曳≪ひ≫いて棚引いた。射線となった歪空間≪いがくうかん≫が、その残像を裂き、地面を荒々しく穿≪うが≫つ。詰襟學生服の横移動は、飛蝗≪バッタ≫の跳躍よりも素早いものだった。
「我が音破≪おんぱ≫を避けるとはな、ギギッ、だが満ち満ちる詠唱からは逃げようもあるまい」
翼の下、頭巾のネビロスが、曲節≪ふし≫をつけて呪殺詩を唄う。
學生服の手先で"管"が振られた。
翠色≪みどりいろ≫の輝きが閃爍≪せんしゃく≫する。
その発光の中から——"管"の中から——弾丸さながらに、異形≪いぎょう≫の影が現出していた。
「ギッ、小僧、サマナーだったのかぁああああああ」
 
悪魔召喚師、舶来≪はくらい≫の言詞≪げんし≫ではデビルサマナー≪Devil Summoner≫、封魔具≪ふうまぐ≫"管"に魔物を飼い、手足として使役≪しえき≫する者たちのことだ。
"管"の材質はさまざまであり、製鋼技術が伝來されぬ時代においては、主に竹筒が用いられていた。各地に伝説が残る"飯綱使≪いづなつか≫い"は、その例説であろう……懐≪ふところ≫に入るほどの細い竹筒の中に、呪霊力を持つ妖狐を棲≪す≫まわせ、術者が通力≪つうりき≫によって操ると畏≪おそ≫れられていた……。
"飯綱使い"は、まさしくデビルサマナーに他ならない。
上杉謙信、また細川政元などの武将は"飯綱の法"に長≪た≫けていたと伝えられ、竹筒から、稲荷大明神、夜叉≪やしゃ≫荼吉尼天≪ダキニテン≫までをも召喚したという逸話さえ残されている。
デビルサマナーは、古来より存在していた。
そして、そのデビルサマナーを主力に、日本を"魔"から護国≪ごこく≫続けて来た"影の機関"が、記紀伝承に名の残る……幻の三本足の鴉≪からす≫……ヤタガラスなのである。
 
「ライドウゥ」
翠色≪みどりいろ≫の輝きから飛び出した影が、黒い毛並みの優美な尾を振る。
「——ドアマース!」
狗≪イヌ≫の悪魔だった。
「あいよ、ライドウゥ、殺るのはどっち」
白と黒の二色体毛、均整のとれた四肢、鋼≪はがね≫の首輪≪カラー≫はメイスの突起さながらの棘≪とげ≫で彩られている。頭部にはクローズヘルムのバイザーを連想させる鋼の額当≪ひたいあ≫てを装着し、その左右に流れる黒髪は、世界的流行のダッチボッブ——アイロンもパーマネントもかけない髪を耳にかかるようにカットしたオランダ風の短髪型——だ。
「な、なんだい、この唄ぁ?」
狗悪魔の額から双眸、そしてノーブルな鼻筋にかけて配色される黒ラインは、パーティ用のアイマスクを思わせる。胸元の純白の膨らみに切れ込む黒毛皮もまた、舞踏会のドレスを模しているかのようだ。
「ドアマース、スタンハウリング≪Stun Howling≫を」
頷≪うなず≫く狗悪魔が、黒塗りの唇を開き、遠吠えを発する。
ネビロスの頭巾が震えた。
唄い流れる呪殺詩が、狗悪魔ドアマースのスタンハウリングで鳴殺≪めいさつ≫する。
「くっ、だが封じられただけだ」
後退するネビロスが指先で印を結んだ。
「その小僧も狗も、攻撃は接近戦のみと見た。ならば遠方から"三分の魔脈"で」
褪紅色≪たいこういろ≫の頭巾が真紅に染まって飛び散る。
白煙を顔があった部分に纏≪まと≫いながら、アメリカの喜劇俳優ハロルド・ロイドの足取りで、ネビロスが倒れ込んだ。
「ああん、遠方からなんだってぇ?」
ドアマースが地面に崩れるネビロスに向けて鼻を鳴らす。
その後方、黒外套の學生服が伸ばす腕先には、硝煙を漂わせる回転式≪リボルバー≫拳銃が握られていた。
「加重弾か、ギギッ、拳銃使い≪ガンスリンガー≫でもあったとはな、小僧、何者なんだ」
空で翼が羽撃く。
「——名乗ったはずだが」
「ふざけるな、おまえは騙≪かた≫っているにすぎぬ。事情通を気取るような知ったかぶりの悪魔には、その名≪ライドウ≫の脅≪おど≫しも効くかもしれんが」
「なーにをホザいてるんだか、この翼野郎はぁ」狗悪魔が肩を竦≪すく≫めた。
「——ドアマース、女を」
「殺す?」二色の顔に喜色が浮かぶ。
「——拾え」
言うや、學生服の手先で発射炎≪マズルフラッシュ≫が瞬いた。
火箭≪かせん≫が宙の喪服を貫き、その背後に密着する翼で爆≪は≫ぜる。
「ああん、邪魔な人質を殺すなら、あたしに」
「——二度は言わないぞ」
「だってライドウゥ、空にいるものどうやって拾うのよ?それに撃ってるし、弾は女にモロ命中して、拾うも何も、もう死んじゃって」
青鈍色≪あおにびいろ≫の翼が傾斜≪バンク≫しながら急上昇した。
芙代子を、不要になった増漕タンクのように振り落とす。いや、指向性の爆弾に近かった。黒外套の學生服を目標に、喪服姿の芙代子が加速度をつけて落下する。
銃口が上向き、再び発射炎≪マズルフラッシュ≫が放たれていた。射線が容赦なく女体を貫き……着物の衽≪おくみ≫、股の間≪あいだ≫を突き抜けて……旋回途中の翼で爆炎を散らす。
仰≪の≫け反≪ぞ≫りながら落ちる芙代子の袖には、初弾によって穿≪うが≫たれた弾痕≪だんそう≫が見て取れた。すべての弾丸は喪服を貫通したものの、傷つけたのは生地だけだ。
「ひ、拾うってことは、落ちてからでいいの?いいのかな、ど、どうなのかな」
地面に吸い寄せられる黒喪服に向けて、狗悪魔ドアマースが白い足先を蹴る。
その方向に立っていた學生服は通りの奥へと長々と跳躍していた。

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【2011/09/14 19:21 】 | 資源發佈 | 有り難いご意見(0)
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